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  • 公開日:2022.08.30

【薬局のお困りごと】調剤薬局で起きたクレーム事例。薬剤師に求められる対応とは

【薬局のお困りごと】調剤薬局で起きたクレーム事例。薬剤師に求められる対応とは

薬局には、子どもから高齢者までさまざまな患者さまが来局されます。急性疾患などで体調の悪い患者さまもいるため、些細なことがクレームにつながる場合もあるでしょう。この記事では、調剤薬局で起きたクレーム事例と薬剤師に求められる対応について解説します。

薬局におけるクレームの実情

薬局におけるクレームの実情

薬局に寄せられるクレームは多種多様。代表的には、「お薬代に関するもの」や「待ち時間に関するもの」などがあります。これらのクレームは、患者さまに薬局の業務内容や調剤報酬に関する知識がないために生じており、そのほかにも認知症などの疾患が原因となってクレームに発展するケースも考えられるでしょう。

対応を間違えると、薬局への信頼低下につながる恐れがあるため、クレームに対して適切に対処することは薬剤師にとって重要なスキルです。

薬局クレーム事例と薬剤師の対応

ここでは、薬局で生じうる代表的なクレームの事例とそれぞれのクレームに対する薬剤師の適切な対応方法についてみていきましょう。

case1.「以前より値段が高くなった」

薬局で保険調剤を行う場合、自己負担金として調剤報酬の1~3割の金額を受領しますが、お会計の際に「以前より値段が高くなった」とクレームを受けるケースです。そのほかにも、お薬代に関するクレームには「ほかの薬局と値段が違う」といったケースもあります。

お薬代が変わる要因には、診療報酬改定や薬価改定、調剤基本料の変更、地域支援体制加算や後発医薬品調剤体制加算の区分の変更、また来局のタイミング(夜間・休日加算等)、手帳の有無などがあげられます。これらの調剤報酬の内容は患者さまにとって馴染みがありません。そのため、処方内容に変更がないのにも関わらず、お薬代が変わると薬局に対して不信感を感じてクレームに発展してしまうのです。

本クレームに対する薬剤師の対応

調剤報酬に関する知識がない患者さまが、お薬代に関して疑問を持つことは当然です。患者さまからのお薬代に関するクレームに対して「国で決められていますから」といった対応では、患者さまの理解を得ることはできません。「なぜ値段が高くなったのか」「なぜほかの薬局と値段が違うのか」を患者さまに丁寧に説明しましょう。

そのためには、調剤報酬に関する知識が必要不可欠です。また、調剤報酬改定や薬価改定などにより、支払金額が変更になる可能性がある場合には、薬局内の良く見える場所に改定内容を掲示しておくことが大切です。

case2.「処方通りに薬を出してくれれば良いので、管理料は取らないで」

「処方通りに薬を出してくれれば良いので、薬学管理料は取らないで」とクレームを受けるケースです。薬学管理料は調剤報酬のなかでも患者さまに対する薬剤情報提供、服薬指導、薬歴の作成といった、薬剤師の「対人業務」について評価される部分です。つまり、これらの業務は必要ないので薬学管理料を算定しないでほしい、というのが患者さまの主張です。

まず、薬学管理料に関わる業務は患者さまからの求めに応じて実施するものではありません。薬の専門家である薬剤師の立場から"患者さまが安全に医薬品を使用するために必要"と判断した場合には、たとえ患者さまから「服薬管理や情報提供は不要」という申し出があった場合においても、使用する薬剤に関する管理・指導を実施し、算定することが認められています。

本クレームに対する薬剤師の対応

「薬学管理料は取らないでほしい」と主張する患者さまに対しては、「薬の副作用や飲み合わせなど服用時に起こるさまざまな問題を少しでも減らすために、薬の専門家である薬剤師が行わなければならないとても大切な業務です」といった説明を行い、薬学管理料に関する業務の意義を理解してもらうように努めましょう

また、「薬学管理を認めていただかなければ、薬を服用して何か問題があった際に薬剤師として十分な責任を果たせません」と、薬学管理料を算定しない場合のデメリットを伝えるのも一つの手段です。

服薬管理指導料に係る業務は、患者さまに安心安全な薬物治療を行っていただくために、薬剤師にとって最も重要な業務の一つです。求めに応じて実施するものではないこともあわせて丁寧に説明し、患者さまの理解を得ることが必要です。ただし、患者さまに薬学管理のメリットを感じてもらうには、充実した服薬指導を行うことが必要不可欠です。日頃から薬剤師としての専門的な知識を身につけるように努めましょう。

case3.「待ち時間が長い」

処方箋を提出してから医薬品を受け取るまでには、数分~数十分、ときには1時間以上を要することもあります。とくに、体調が優れない患者さまにとって待ち時間は非常につらいものです。また、医療機関で長時間待たされたあと、さらに薬局でも待ち時間が分らぬまま待たされ続ければ「待ち時間が長い」とクレームを言いたくなるのも無理はありません。

調剤は、処方箋にミスが無いか、用法用量は正しいか、併用薬との飲み合わせは問題ないかなど、処方箋やお薬手帳、薬剤服用歴をさまざまな角度から確認したあとに行います。したがって、多種類の薬が処方された場合などでは時間がかかってしまうのです。また、処方内容に問題点があった場合は、医師に疑義照会や服薬情報提供を行う必要があるため、さらに待ち時間が長くなってしまいます。

本クレームに対する薬剤師の対応

待ち時間についてのクレームを未然に防ぐには、不満を感じさせてから謝罪するのではなく、事前に待ち時間やその理由を伝えることにより不愉快な気持ちにさせないことが重要です。その際には一方的に「◯分くらいかかります」と告げるのではなく、「◯◯さん、もしかしたらお急ぎですか。今日は処方内容の確認や疑義照会のため◯分くらいかかりそうですが、ご都合いかがでしょうか」といったように質問形式で問いかけて、「用事を済ませてから後で取りにくる」など、患者さまに選択肢を与えることがポイントです。

case4.「薬が合わないので、返品したい」

薬を飲んだけど効果がなかった、副作用が生じた、ジェネリック医薬品に変更したけど使用感が違う、といった理由で「薬を返すから返金してほしい」というクレームを受けるケースです。調剤が適切に行われていれば、患者さまから調剤済みの医薬品を返却されたとしても、その分の代金を返却する義務はありません

本クレームに対する薬剤師の対応

「返金してほしい」というクレームに対しては、基本的に返金はできないことを丁寧に説明して理解してもらうしかありません。よって、クレームを未然に防ぐためにジェネリック医薬品に変更する際には、ジェネリック医薬品は有効成分は先発品と同じだが添加剤が異なること、なかには使用感が違うと感じる患者さまもいること、返品・返金できないこと、先発品に戻す場合は次回の処方箋受付時になることを伝えて、患者さまに納得してもらったうえで調剤を行いましょう

また、薬を飲んだが効果がない、副作用が生じたといった場合では、どのような症状があらわれたのか、用法・用量に問題が無かったかなどについて確認したあと、患者さまの同意を得たうえで医師に情報提供を行うことも重要です。

case5.「処方された薬が足りない」

調剤を行ったのち、「処方された薬が足りない」とクレームを受けるケースです。薬の不足が患者さまの飲み間違いや、紛失による場合と、薬局側のミスの場合が考えられるため、それぞれによって対応が異なります

本クレームに対する薬剤師の対応

薬の過不足を指摘された場合には、まずは謝罪をしたうえで、実在庫と理論在庫に差が無いか確認します。在庫数に違いがあり、薬局側のミスである場合には、もう一度謝罪をして不足分の薬を交付します。

実在庫と理論在庫に違いがなく、患者さまの飲み間違いや紛失によるものと考えられる場合には、調剤した数量に間違いがないと確認が取れたことを伝えて、不足の薬を調剤するには、再受診して処方箋を発行してもらう必要があることを説明します。ただし、その場合は保険適応にはならず、自費であることに注意が必要です。

また、頻繁に薬の数が合わないという患者さまのなかには、認知症などの影響により薬の管理ができていない場合もあります。一包化やお薬カレンダーの提案、投薬時に一緒に数を数える、写真などの記録に残すなどの対策を行うだけでなく、家族やケアマネジャーなどと、患者さまの情報共有を行うことも検討しましょう。

番外編.「病院に見せたのに、薬局でも保険証を見せる必要があるの」

薬局で初回の患者さまに対して保険証の提示を求めた際に、「病院に見せたのに、薬局でも保険証を見せる必要があるの」と保険証の提示を拒否されるケースです。そのほかにも月が変わったタイミングで保険証の提示を求めた際に、「この間見せたのに、なぜ毎回見せる必要があるのか」と保険証の提示を拒否されるケースもあります。

門前薬局や敷地内薬局のように、病院と薬局が隣接している場合では、病院と薬局が一連の施設だと思われていることも少なくありません。また、保険調剤の仕組みを理解していないことや、個人情報を知られたくないといった理由でもクレームにつながることがあります。

本クレームに対する薬剤師の対応

保険薬局が保険証を確認することは、「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」や「健康保険法施行規則」によって認められており、患者さまは確認を求められた場合には保険証を提出する義務があります。しかし、規則で決まっているからと事務的に対応してしまうと、クレームがさらに発展してしまう可能性があります。患者さまの主張をしっかりと聞き取ったうえで病院と薬局は別の施設であることや保険調剤を行うには保険証の確認が必要であること、また個人情報は厳重に管理していることなどを丁寧に説明するようにしましょう。

薬剤師がクレーム対応をする際のポイント

薬剤師がクレーム対応をする際のポイント

クレーム対応をする際には、初期対応が非常に重要となります。たとえ薬局側に非がない場合であっても、まずは患者さまの言い分に耳を傾けましょう

きちんと事実確認を行い、患者さまの要求が適切な薬物治療を妨げるおそれがある場合は、毅然とした対応が必要となる場合も。また、クレームを受けたときにスムーズな対応ができるように、対応方法や手順を薬局内でマニュアル化しておくことが重要です。

クレームは薬剤師の対応次第で"信頼"に変わる

この記事では、調剤薬局で起きたクレーム事例や薬剤師に求められる対応について、例をあげながら解説していきました。

怒っている患者さまを目前にすると、うまく対応できないこともあるかもしれません。しかし、薬剤師が自分の話を聞こうとしてくれている姿勢が伝われば、患者さまの不満が落ち着くこともあるでしょう

また、クレーム対応が患者さまとの良好な関係を築くきっかけとなるケースもあります。薬剤師として、常に患者さまに寄り添い、正しい説明ができるようにしておきましょう

松田宏則さんの写真

監修者:松田宏則(まつだ・ひろのり)さん

有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。

記事掲載日: 2022/08/30

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